2013年5月14日火曜日

もう一つの区切り



―笑った顔が柔らかくなったな。
  お前はいつも笑ってるけど、前に会った時は少し硬いなって思ったから―





20年来、好きなひとがいる。
20年間毎日想い続けた訳じゃないから、好きなひとと呼ぶには語弊があるかも知れないけど。



正確には、会うと「やっぱりこのひと好きなんだよな」と思うひと。


そのひととは別に、好きな相手も現れたし一度は結婚もした。
本当はそのひとが好きなのに付き合ってたとかいうのとは違う。
その時々はその相手のことが好きだった。



10代の頃に出会ったそのひとは、ちょっと憧れるくらいの存在だった。

知らないってすごい。
当時は手放しに「大好き」を表現できた。




そんな女の子だって嫌でも少しずつ女になっていく。
年齢を重ねるにつれ、そのひとが多少の距離を置くのを感じるようにもなっていった。




どうにかなろうと思うことも、
どうにかしようとすることも、なかった。


それでよかった。



気付けば、知り合って20年が過ぎた。





久しぶりに会った。
似たような時期に、互いにそれぞれの父を亡くしていた。
近況報告は少しつらいものになった。



腹減ってないか?

ううん。食べてきたから。



すぐ、子供扱いする。
それを心地よく感じている。







笑った顔が柔らかくなったな。
お前はいつも笑ってるけど、前に会った時は少し硬いなって思ったから。






茶化すしかなかった。
そのひとはただ笑っていた。




変えようとか忘れようとか頑張る必要はなかった。
思いがけなく長い時間が過ぎたけど、その内自然に変化の時がくる。


そのひとは変わらない。
私も変わらない。
間にある関係だけが少し変わって、また一つ、区切りがついたのを感じた。